裁判員体験記その2

 さてさて火曜日からはいよいよ本番の公判。評議室に集合して簡単な説明の後さっそく法廷へ。入ると既に検察・弁護人・被告はスタンバイ済み。まず起訴された内容が説明され、次にドラマ等でもお馴染み(の気がする)「あなたには黙秘権があります」という被告人への宣言。続いて簡単な事項を確認して最初の公判(冒頭手続)は終了。基本的に裁判員裁判は負担を抑えるために適宜休憩が入るようになっていて、居眠りという危惧していた事態になることはありませんでした。
 で、以降は評議→公判の流れを1日3回程度繰り返すというのが基本的な流れ。冒頭手続の次の公判で行ったのが冒頭陳述で、ここ検察官と弁護人から事件の概要が説明されます。
 その事件ですが、罪状としては前回書いたように現住建造物等放火罪で、「統合失調症を患う被告人の男性が自殺を図って家族の住む2階建て借家(入居者は被告人一家を含む2世帯)に火をつけ、2階が全焼、1階が半焼した」というもの。これに対して検察官からの陳述については「家族が住んでいるというのに身勝手極まりない」といったような修飾節がつけられ、また弁護人からの陳述では「数か月前に仕事を辞めたりと精神的に追い詰められており、また統合失調症もあり家族のことまで気が回らなかった」といった弁護が加えられるわけです。
 この統合失調症については後々精神科医が証人として呼ばれたりと度々審議の話題に上がったわけですが、弁護人側も「責任能力がないから無罪」といった主張をしたわけではなく、あくまで情状酌量の要素としての勘案を求めるという論調で、精神疾患の扱いにもいろいろある模様。
 証拠調べの後は証人尋問で、被告の父と兄・家主の大家さんからの証言。これは事件当日の事実関係の確認だけではなく、現場での心情やら処罰感情についても喋ってもらいます。この処罰感情が通常の(?)放火事件とは違っていて、事件の直接の当事者の証言(証人尋問での発言or検察の取り調べでのコメント)が

  • 被告人家族:寛大な措置を求む。
  • 大家さん(焼けた家の向かい在住):貸家は取り壊すことになったけれど、そもそも築40年くらい経っていて取り壊したかったけれど入居している2世帯が退去してくれない状態だった。おまけに2世帯とも家賃滞納していた(しかも被告人家族じゃないほうの世帯は年単位で)。で、通常の解体でなく火災からの解体となったことで数十万円余分にかかったけど、↑の事情もあるので賠償請求する気はなし。あと近所付き合いで被告人の人となりも知っており、処罰感情は特になし。
  • 焼けた借家のもう1世帯の住民:最近は親戚の家で暮らしており当日も現場にはおらず。焼けた家財の額もあまり多くなく処罰感情は特になし。
  • 大家さんとは別の隣家:火が近くて煤が少々怖かったけれど、近所付き合いもあり別段処罰感情はなし。

 というわけで誰も困ってない!ていうかなんか大家さんの事情がいろいろ凄い。まあそもそも日本で放火の罪が大きいのは「公共の危険を防ぐ」というのが大きいので直接の当事者が罰を望まなかったらOKというものではないんですが。
 で、ほか尋問では「事件のしばらく前から精神科への通院をやめていたことについての責任感はないのか」「(父兄に対して)厳罰は望まないとあるが、被害者が社会に出た後にサポートできるプランがあるのか」等の質問がされます。
 で、こういった証拠・証言のもとで評議を行うというのを火・水・木曜日と行い、そして最終日に進みます。